独立や起業はやはり難しい?
先日大学時代の友人が勤務先を退社し、起業を果たした。
システムエンジニア(SE)として40代の働き盛りにある彼は、大手予備校の基幹システム開発のプロジェクトリーダーとして十数人のチームを率いていた。
その忙しい本業の傍ら数年の準備を経て、かねてからの目標であった独立の目途がたち、このたび法人登記を行い、新たな一歩を踏み出したという。
もしあなたがサラリーマンであれば一度は起業や独立に興味をもったことがあるだろう。
会社員でなければうるさい上司の顔色を伺う必要はないし、自分の好きなように仕事ができる。朝だって好きな時間まで寝ていられるだろう。
中には具体的に独立・企業を検討したことがある人もいるかもしれない。しかし現実には「自分には独立できるほどのスキルや資格はない」「起業したところで成功なんてできやしない」と結論づけて何も行動に起こさないケースがほとんどだ。
それでは、そもそも独立や起業はどれほど難しいものなのだろうか?
本エントリーでは40代以上の読者が定年に向けて本業引退後も自分の武器をもって稼いでいくための方法について検討してみたい。
これから定年後も稼ぐことが求められる
前述した私の友人のように「システムエンジニア」という手に職を持っているケースであれば独立しやすいだろう。料理人や美容師なども同様だ。
大きく稼げるかどうかは個々人の手腕によるが、これらの職業は独立までのハードルは他業種に比べると高くはない。
その一方で多くの一般企業に勤める会社員はこうしたわかりやすい資格やスキルを持っていないので、なかなか独立して経済的に成功するイメージを持てない。
しかしだからといっていつまでも会社に依存していられるものなのか。厚生労働省によると2018年5月時点の有効求人倍率は1.60倍と、バブル経済期の水準を超えたという。
これは1974年1月以来、43年ぶりの高水準であり、日本はいま空前の「売り手市場」にあることを意味する。
しかしほんの数年前までは不況、不況と騒がれていたように、景気は循環を繰り返す性質のものだ。またいつ不況に陥り、企業業績の悪化によって、リストラが断行されるかはわかったものではないのだ。
加えてこれから超高齢社会を迎える中で、2018年4月には財務省の審議会の1つにおいて「厚生年金の支給開始年齢を68に引き上げる」という案が示されたと大手メディアが報じている。つまり我々は定年後も稼がなければいけないという状況に追い込まれつつあるのだ。
意外なモノに価値がつく
「自分には特別なスキルがないので稼げない」と結論を出すのは早計だ。自分では価値がないと思い込んでいるものでも、他人にとって価値があるのならそれはビジネスになる。
たとえば、CMでおなじみのフリマアプリの「メルカリ」ではユーザー間で興味深い商いが日々行われている。
家庭ゴミとして捨てられる「トイレットペーパーの芯」や「壊れたリモコン」などが複数のユーザーによってメルカリに出品されており、それを見た他のユーザーが実際に購入しているのだ(もちろんすべてが売れているわけでないが)。
トイレットペーパーの芯であれば学校の工作などに使用されているのもしれない。また壊れたリモコンであれば分解して部品としての利用が目的なのだろう。
それにしてもこれまでゴミとして捨てられてきたモノに価格がついて売られているのは意外な事実である。
このように一見価値がないと思えるモノでも、提供する相手や提供方法によってはそれがサービスとして成り立つことを意味する。
もう少し分かりやすい例もあるのでご紹介したい。ボイストレーニングスクールの『ビジヴォ』のケースだ。
東京都千代田にある同スクールは、ビジネスマン向けにプレゼン・商談・スピーチでの活用を目的としてた「声」の出し方のトレーニングを提供している。
同スクールの代表者は秋竹朋子氏という女性だが、プロデュースしたのは秋竹氏の夫である午堂登紀雄氏だ。
午堂氏が雑誌『PRESIDENT(2017年3月6日号)』に投稿した記事「妻が一生働ける仕事探しとは?」によると、もともと秋竹朋子氏は音大卒業後は売れないピアニストだった。
しかし今ではビジネスマンの声づくり専門のボイトレスクール『ビジヴォ』を事業として成功させただけでなく、企業研修でのボイストレーニング指導や全国での講演、リトミック(音感教育)教室なども手がけており、年収2,000万円を稼いでいるという。
たとえ音大出身でもプロのピアニストとして食べていけるのはごくひとにぎりのトップ層だけだ。その他大勢はレストランでピアノ演奏をしたり、自宅の近くに子ども向けのピアノ教室を開きながらプロを目指して細々と活動しているケースが多い。
そのような中、秋竹氏は比較的単価を高く設定できる都内のビジネスマン向けに絞って、スクールを開設するという一般とは異なった選択をとった。
もっとも秋竹氏自身も最初は「声のトレーニングなんてお金になるのだろうか?」と半信半疑だったらしい。
しかし夫の午堂氏は自らも「滑舌の悪さ」というコンプレックスを抱いていたので、働くビジネスマン向けにこうした声の悩みを解決できれば、商売が成り立つと考えたのだ。
『ビジヴォ』のケースは視点を変えて、自分たちが持っている能力を活かしてビジネス的に価値を生み出した好例と言えるだろう。
まずは自分の得意分野を整理・認識
いま40代以上の会社員であれば、すでに社会人として20年程度の経験を積んでいるはずだ。同じ業界、同じ会社で働いてきたのならその分野に関しては専門家といってもよいだろう。
営業、企画立案、交渉の経験、海外駐在など、これまで自分が培ってきた経験は実は他人にとって貴重な資料になる。自身のスキルを「誰に」「どうのように」売るかが価値を生み出すカギとなる。
そのためにはまずは自分の経験や得意分野を整理してみよう。学生時代に就職活動で自己分析をしたように、今いちどここで社会人になってからの経験や得意分野を紙に書きだしていく。また長年続いている趣味があればここに加えていく。
次に自分の経験や得意分野・趣味同士をそれぞれつなげてみよう。たとえば英語とサッカーが得意ならば、この2つをつなげて何かビジネスにならないかを考えてみる。
小・中学生向けのサッカースクール、英会話教室単独ならばそれぞれ世の中に無数に存在するが、「英会話でのサッカースクール」となると競合サービスは劇的に減る。
また対象を小・中学生ではなく、都内のビジネスマン向けにするとほとんどライバルはいなくなる(少なくとも2018年8月末時点では私がGoogleで検索した限りは見当たらなかった)。
近年フットサル人口が増加しており、都内でもあちこちにフットサル場が設けられている。社会人向けに誰でも気軽に参加できる個人参加のフットサル(通称:個サル)が盛況だ。
そしてその一方で平日の朝にフィットネスクラブで汗を流す人や英会話に通う社会人も多い。
それではたとえばこれらを掛け合わせて、早朝7時から8時まで英会話を使ったサッカースクールを都内で展開したらどうだろうか。ある程度の需要は見込めるのではないだろうか。
このように自分の得意分野をつなげて、さらには過度な競争を避けてニッチに攻めることで戦略は成り立つ。
ニッチに絞ると当然市場は狭くなるが、ビジネスマン向けであれば単価は高く設定できるし、個人事業主として一人、もしくは少人数でビジネスを回していくのであれば十分利益が計算できる。
100点ではなく80点を目指す
定年後に向けて自分のビジネスを開始する際に重要なのが、スモールスタートで始めることだ。小さく始めて大きく育てていくのだ。
最初から退職金を資本に大勝負に出てるようなことをすると後戻りができなくなってしまう。失敗して資金がショートした時点で動けなくなってしまう。小規模で事業を始めて、軌道に乗ったら人材や資本を徐々に注入していくのが無難だ。
そもそも会社員にとって独立や起業は未知の世界。当然最初から上手く進めるとは限らないし、むしろ失敗を前提に準備しておくと何かあっても対応しやすいし、再起不能になるという状況を回避できる。
リスク管理の分野で用いられる用語に「コンティンジェンシープラン(Contingency Plan)」 というものがある。
予期せぬ事態に備えてあらかじめ緊急時対応計画を立てておくという概念だが、このコンティンジェンシープランを立てておくと、「撤退ができない」もしくは「新たな損失が発生する」という悲惨な事態を避けることができる。
前述した英会話を用いたサッカースクールという事業を始めたと仮定すると、最初から自前のフットサルコートを持つ必要はない。
なぜなら集客が見込める都内の空き地を不動産として購入して、そこにフットサルコートを一から整備しようものなら資金いくらあっても足りないからだ。事業に失敗した際には多大な借金だけが残ってしまう。
そうではなくて、すでにフットサルコートを運営している施設へ交渉し、コートが空いている時間だけお金を払って借りるとよいだろう。
その意味でも平日の早朝にビジネスマン向けのスクールであれば、その時間帯にはフットサルコートを使用するほかの利用者は少ないだろうし、都合がよい。
個人で始めるビジネスなら100点満点ではなく80点を目指したい。満点を目指すとどうしてもリスクも大きくなってしまう。若者とは異なり失敗した場合に挽回できる体力と時間が中高年には限られているのだ。
社会人にとって「勉強」とはビジネスの世界で変化に対応するための作業。ダーウィンの進化論のように自分を変化させた者が勝ち残っていく。そのためたくさんの小さい失敗を糧にしてビジネスを磨いていこう。
ネットと人脈をフル活用して集客する
一から事業を起こす場合に、壁として立ちはだかるのが「集客」だ。とにかくユーザーやお客が集まってしまえばマネタイズは可能になるが、どんなに環境を整えても人が集まらなければ話にならない。
これまでの仕事や地域生活、趣味で培った人脈はフル活用したい。また今や個人事業主でも工夫次第で低コストで効果的に集客が行える時代だ。
その一つがSNSやブログ、ホームページなどのインターネットを利用した集客だ。これらはそれぞれ単独で行うよりもリンクさせることで相乗効果が生まれる。
SNSにはFacebook・Twitter・Instagramがあるが、どれか一つということではなくすべてやる。そしてブログやホームページもそれぞれ開設して各々のアドレスを貼っておき、集客したユーザーの導線をつくっておく。
たとえば「Facebook・Twitter」から「ホームページ」へ誘導し、そこから「製品詳細」「資料請求フォーム」につなげる。定年後であればブログやホームページは毎日更新しよう。続けることで訪問ユーザーは増えていく。
Facebook・Twitter・Instagramはもちろん無料だが、ブログやホームページも自分で準備できれば、ほとんど無料で作成できる。
インターネット検索で無料のイラスト素材もたくさん見つかるので、必要なのはサーバー代くらいだろう。
ホームページについては知識やスキルに自信がなれば専門業者に作成を依頼するのも選択肢の一つだ。凝った作りでなければ10万円以内で制作してくれる業者もある。
こうしてリスクを抑えながらスモールスタートで始めて、ユーザーの声を聞きながらサイトやサービスの改善を繰り返していく。
ビジネス用語でいうところのPDCAサイクルを回していく。そうすることで徐々に売り上げが増えていく。
もちろん事業として軌道に乗らないケースもあるだろう。その場合はやめてしまえばよいのだ。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正氏やソフトバンクグループの孫正義氏でさえ読みが外れたり、失敗することはあるのだから気にすることはない。
資金的にダメージがなく、アイデアさえあればまた別のビジネスに挑戦することができる。あらかじめ失敗する可能性も考慮しながら対応することで、最終的に成功する確率は増していく。
定年に向けて40代、50代から準備すれば十分時間はあるのだから独立や起業に興味ある方は検討してみたらいかがだろうか。
まぁこんな偉そうに長々と書いておきながら、まだ私自身は会社員。本エントリーの内容は実体験に基づいておらず、伝聞と観察により執筆している。そのためタイトルにあるように会社員の妄想として軽く読み飛ばしてちょうだいな。