近年、電子書籍が徐々に普及してきているが、ユーザーの不満の1つが電子書籍の価格が紙と比べて安くないということだろう。
読者の「電子書籍なら紙の本よりも安く値段になるはず」という期待に出版社は応えられていない状態だ。
電子書籍は制作にそれなりにコストがかかる上に市場規模もまだ小さい。そのため紙の書籍よりもコストの回収が難しく、価格を安くできないのだが、そのあたりの話は下記エントリーで説明させていただいた。
するとこんなコメントがついた。
読者「電子書籍なのになんで安くないんだ!」→出版社「いや電子の方が原価が高いし……」 - コツログ
電子書籍を作るための初期投資はまだまだ全然できてないってことなのか。 DRM周りで余計にお金かかりそうだし、そんなもんかもしれん。
2017/07/07 01:23
このエントリーでは、私は一言もDRMという用語を使っていなかったにもかかわらず、このようなコメントがついた。
他にもDRMに関するコメントを次々といただき、エントリー公開から一週間で計17件もDRMについて言及されている。
DRMってなんのこと?
一般の人にはDRMなんて聞きなれないワードかもしれない。DRMは三省堂大辞林で以下のように説明されている。
digital rights management。デジタル著作権管理。デジタル-コンテンツの著作権を管理・保護するために,違法なコピーの流通・使用に制限を加える技術。
DRMは、デジタルコンテンツの著作権の管理・保護に欠かせない技術だ。そのためDRMは出版業界だけでなく、音楽や映像の世界でもたびたびテーマとなるトピックである。
では、DRMがないと、どういう事態が生じるのだろうか。
残念ながら間違いなく電子書籍を購入したユーザーから以下の行為が発生するだろう。
・勝手にネットショップを立ち上げ、コンテンツを再販売する
その結果、本来お金を出して購入すべきコンテンツを一般ユーザーは格安または無料で手に入れることできる。
もちろん一般ユーザーは喜ぶだろう。しかし著者には1円も印税が入らなくなり、出版社は収入が途絶えてしまう。
DRMが破られたらどうする?
出版物として販売した途端に、ネットにコンテンツが拡散されるとわかっていながら、電子書籍化を認める著者なんていない。
著者の許諾がなければ出版などできない。そのためDRM抜きでは、そもそもコンテンツは販売されなくなってしまう。
またたとえ著者が電子化を許したとしても、売り上げが上がらないと、出版社は経営が成り立たなくなる。そのため出版社はやはりこうした違法行為を許すわけにはいかない。
上記の理由から、日本国内で販売されている電子書籍には、もれなくDRMで守られている。
が、それでもコンテンツの流出リスクというものはある。DRMの技術には限界があるからだ。そこで以下のような意見が上がる。
読者「電子書籍なのになんで安くないんだ!」→出版社「いや電子の方が原価が高いし……」 - コツログ
DRMが癌過ぎるという話だった / ユーザー全員にセキュリティコストを負担させてコンテンツを保護しても誰か1人が穴ついて複製して拡散させたらそれで終わりなんだから割に合わないと思うんだけどなあ
2017/07/07 08:41
電子書籍のコストが高いのは、DRMだけが原因ではないものの、たしかにDRMにかかるコストというのは小さくない。ただし上記コメントの指摘通り、いくら強固なDRMでも、悪意をもったスキルの高い者に破られてしまう可能性はある。
違法行為について根気強く監視
しかし実は出版社はこうした事態についても想定している。インターネットで拡散されてしまった時のことを考えて、大手出版社では「デジタル・ライツ局」という部署を設けていて、そこで監視している。事前予防だけではなく、事後対応もしているのだ。
そもそもどんなに優れたDRMをもってしても、iPhoneやiPadの標準機能であるスクリーンショットを防ぐことはできない。本体の「スリープ/スリープ解除ボタン」と「ホームボタン」を同時に押すことで、画面に表示中の画像が保存されてしまう。
これをひたすら繰り返せば書籍1冊のデータが出来上がってしまうが、これはiOSの仕様ということで諦めるしかない。
そのためDRMと言っても、その防御技術には限界があるので、出版社としてはインターネットに無断掲載されてしまった後の対応というのが必要になるのだ。
いたちごっこかもしれないが、違法行為について、出版社はコンテンツを守るために根気強く対応していくしかない。
ただこうした作業にももちろん、人件費やコストがかかる。顧問弁護士に相談することも多くなる。そうなると直接的ではないにしても、これらのコストも電子書籍のコストにかかってくることになるので、電子書籍の価格は安くするのは、なかなか難しいのが現状なのだ。