2016年末に発売され、ネットでも一部で話題になっていた『再起動 リブート』を読んでみました。
著者の斉藤徹氏は新卒で日本IBMに入社し、6年勤めた後に起業します。そしてフレックスファームというダイアルQ2のサーバーやコンテンツ開発をする会社を始めて、たった1年ちょっとで月商1億円を突破し、経営者として成功をおさめます。
しかし大変なのはそれからで、ダイヤルQ2が規制強化されブームが去ってしまうと事業はとたんに資金難に陥ってしまい、倒産ぎりぎりの綱渡り生活が始まります。
それから新規サービスを企画しては、何度も復活と経営危機を繰り返していくのですが、張本人が執筆しているだけに、読んでいるこちら側が疲れてしまうほど文章に臨場感があります。
1990年前後のバブルに踊らされ、1998年の金融危機や2007年のリーマンショックに翻弄されながらも、資金繰り地獄を何とか生き抜いていくタフさは根っからの事業家だと感心されされます。
著者にとって起業は麻薬
私は本書を読むことで、起業するのが怖くなりました。
とくに著者が経営する会社は、画期的なサービス内容で業界や投資家、銀行の評価も高ったにもかかわらず、不景気や取引先の事情で倒産寸前の憂き目にあってしまいます。
また実際に受注が舞い込んできても、手持ちの資金がなくなり、取引先への支払いや、オフィスの家賃、従業員の給料などを支払うことができなければ、黒字倒産してしまいます。
こうした経営の難しさを本書では疑似体験できます。そして起業のリスクをひしひしと感じることができます。
銀行の借金も景気が良い時は何の問題もないのですが、バブル崩壊や世界金融危機のような不景気になると、とたんに追加の融資は断られ、「早く金を返せ」と自宅が差し押さえられてしまいます。妻子に心配かけまいと、著者は最終的には自殺して保険金で返すことも覚悟して、必死に資金繰りに走ります。
読んでいるこちらもどきどきはらはらの展開が続きますが、会社分割や事業譲渡などの起死回生の対応によって、何とか生き延びていくのです。
こんな辛い思いするなら、よほどサラリーマンの方が気楽だと思ってしまいますが、著者は会社を売り払って借金から解放されると、また新しい事業を始めてしまいます。
起業して事業を軌道に乗せることに、体が興奮を覚えてしまい、何度も繰り返してしまうのです。著者にとって起業とは麻薬のようなものなのでしょう。
ちょっと私には理解できませんが……。
能力が高いのになぜ失敗してしまうのか
ところで本書を読んで疑問に感じたことがあります。
著者は人並み外れた先見性があり、プログラミングスキルもIBMでもトップクラスで、野心と行動力も持ち合わせています。それなのになぜ何度も失敗してしまうのかという点です。
著者より知識・技術・経験は低いにもかかわらず、成功している経営者はたくさんいます。それなのになぜ著者は何度も倒産の危機に陥ってしまったのでしょうか。
その答えは、著者が才能と野心があるだけに、すぐに事業を急拡大してしまうことに違いありません。
事業が軌道に乗ると、著者は勢いに乗ってすぐに社員を50人、100人に増やしてしまいます。オフィスも広いテナントへ引越を繰り返します。
しかし先進のITサービスは、盛り上がる時の勢いはすさまじいものがありますが、ブームが去ると急に使われなくなったりします。水商売のようなものなので、ちょっとしたことで需要が急減してしまうことがあるのです。
そうすると売上が入ってこなくなり、経費だけが拡大してしまいます。とたんに資金難に直面してしまうのです。一攫千金を狙うのは良いのですが、性急な投資はハイリスク・ハイリターンです。会社が成長期にあっても投資を慎重に行っていれば良かったかもしれません。
起業とその後の経営の手腕は別物
世の中には、人並み外れたアイデアと行動力をもって起業して世間の注目を浴びる経営者がいます。
ただし起業するのと、経営者として会社を維持発展させていくのは、また別物です。
そういう意味では本書の著者は、起業は得意ですが、経営者として会社を維持発展させていくのは苦手なのかもしれません。
以前読んだ本で『社長失格』という書籍があるのですが、デジャブかと思うぐらい、本書と似たような内容の書籍です。『再起動 リブート』を読んで面白かったという人はぜひおすすめします。
同書の著者である板倉 雄一郎氏も斉藤徹氏と同様に起業するまでの勢いがすごいです。インターネット事業が急成長して、米マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長までが面会を求めるほどに注目を浴びます。
しかしやはりサービスを運用していくことに関しては得意ではなく、周囲の人間に裏切られたり、銀行から資金を引き揚げられるなどして失敗してしまいます。
もし起業を考えてられている方がいたら、この2冊はとても参考になる、というか、必ず読んでおいて損はないと思います。