週末5分間 英語クラブ byコツログ

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【図解】出版社業界のヒエラルキー 業界20年の編集者が解説

どの世界、どの業界にもヒエラルキーは存在する。
誰も決して公には口に出したりしないものの、否定しがたい確かなピラミッド型の階層組織がそこにはある

私は20年にわたってライターや編集者など主に書籍をつくる仕事をしてきたが、その出版業界とて決して例外ではない。
いやむしろ、出版業界は他の業界以上にわかりやすく階層が形成されている

図に表すと以下のような階層社会である。

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それぞれのプレイヤーについて簡潔に説明していきたい。


最上位:著者

まず出版業界の階層のトップに君臨するのが著者だ。

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ここで言う著者とは肩書も実績もある書籍の執筆者のことだ。

マンガ家でいえばデビューを狙っているたまご作家ではなく、すでにヒット作を飛ばしていて複数の出版社から仕事の依頼が途切れないような売れっ子を指す。

需要と供給の関係で、実力のある(本が売れる)著者に対しては、出版社の編集者はどこまでも卑屈だ。
たとえ原稿の締切が遅れたとしても、決して強い態度には出れない。なぜなら著者に嫌悪感を抱かれたらもう仕事をしてくれなくなってしまう。

たとえば知名度抜群の大学教授であれば、書籍なんか出さなくても本業の大学からの給料があるし、テレビ出演や講演などの副業でたっぷりとお金を稼ぐことができる。

だから本なんて出さなくてもいい。こうした余裕を生む立場があるので、出版社側としてはなんとか著者の機嫌をとって、書いてもらわなければならない。

こうした両者の力関係を知ってか、尊大な態度をとる著者もいるが(驚くほど多い)、出版社の編集者は内心では「このやろう、仕事じゃなければぶん殴ってやる!」と思いつつ、「先生、そこをなんとか…」なんてへりくだって業務を前に進めなければならない。

もちろん駆け出しの作家の場合は立場は逆転するのだが。
こうした編集者の心理を人気作家の東野圭吾が「黒笑小説」シリーズで描いている。

黒笑小説 (集英社文庫)

黒笑小説 (集英社文庫)

 

主人公は著者に対してどこまでも卑屈でどこまでも丁寧だ。
おそらく東野圭吾がそのような対応を出版社から受けており、着想を得たのだろう。
編集者ならば自虐を込めて楽しめること間違いなしなのでおススメだ。

第2階層:出版社

次に出版業界で著者の次点に位置するのが出版社だ。

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出版社の編集者は、本をつくるうえではスポーツチームの監督のようなもので、エースの著者を選んだら、印刷所やイラストレーター、カメラマン、ライター、編集プロダクションをメンバーに加えて、チームを構成していく。そしてチーム一丸となって書籍の発売日まで突っ走るのだ。

編集者は多くの業者の中から仕事のしやすい業者を選ぶことができる。
そのため業者側からすると、権力を保持している状態になる。

もちろん売れっ子のイラストレーターやカメラマンも存在し、彼らは高いギャラをもって仕事を依頼される立場にある。

しかしそんな売れっ子はごくごく一握りの存在で、その他大勢は仕事を選ぶことさえなかなか難しい。

頼まれたら断らない。どんな無茶な要望でも出版社から与えられたら最大限力を発揮して次の仕事の依頼がかかるのを待つのだ。

こうした力関係を敏感に察知し、印刷所やライターに対してあからさまに偉そうにする編集者もいる。

著者には卑屈な態度で接するくせに、そのストレスの発散を力の弱い業者にぶつけるような輩だ

こうした人間はクズには違いなく同僚からも冷ややかな眼差しとともに距離を置かれることになるが、ヒエラルキーが存在する証拠にもなっている。

第3階層:書店

出版社の次に位置するのが書店だ。

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書店員は本好きである確率が高く、出版社で働くことに強い憧れをいだいている人もいる。
実際に私は出版社で中途採用も担当することがあるが、元書店員という人の応募も珍しくない。

ただしとくに大手出版社の編集部はどこも倍率100倍超の狭き門でそう簡単には就職できるものではない。
業界全体の売上は右肩下がりだが、腐ってもメディアであるのと、高給を維持しているので人気があるのだ。

給与形態についてはこんなエントリーがあるので参考までに。

www.kotsulog.com

そのため新卒の就活競争に敗れて、書店員として落ち着いたというパターンもある。
書店員の中には出版社の編集者という職業について羨望の眼差しを向け、チャンスがあれば働きたいと思っている人も少なくない。

とは言っても出版社は書店に対しては強い態度に出ること少ない。
なぜなら書店には自分たちの本を売ってもらわなければならないからだ。
Amazonなどインターネット書店の力が強くなっているとはいえ、リアル書店を無視することはできない。

これは商品を人質をとられているようなものなので、あまり自分の会社の印象を悪くしてはいけないという感情が働いている。
特に出版社の営業マンは書店に対してかなり気をつかっており、立場が逆転している場合もある

第4階層:印刷所

印刷所にとっては出版社はお得意様であり、重要顧客だ。

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そのため印刷所の経営陣や営業マンは出版社に対してこれでもかというぐらい礼儀正しく接する。

まさに出版社の編集者が著者に対して行う慇懃な態度を、印刷所は出版社に対して行う。
12月にお歳暮を贈ってきたなと思ったら、大人数で年末の挨拶に来て、さらに休み明けの年始の挨拶にこれまた大勢でやってくる。

年末年始の休みは挟んでいるものの、営業日としては翌日である。
何もそこまでしなくてもと思うが、これはまさに出版業界において明確なヒエラルキーが存在することを示している。

第5階層:イラストレーター

一般的にいってけっこう立場が弱いのが、フリーのイラストレーターだ。

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図表や挿絵のイラストレーターに代表しているが、カメラマンや表紙作家も同様だ。

売れっ子のイラストレーターももちろんたくさんいるが、割合でいえばやはり一部の人たちで、その他大勢は仕事を選べる立場でない。

自分のテイストを前面に押し出すのではなく、編集者の要望を注意深く聞いて、求められる役割をきちんとこなせなければ、次の仕事はこない。

実際には自分では何ひとつ作り出せない編集者なんかよりもよっぽど尊敬されてしかるべき職人たちだが、それでもお金の出どころで立場が決まってしまうので、業界全体でみるとやはり弱い立場である。

第6階層:編集プロダクション

下から2番目に位置するのが、編集プロダクション。略して編プロだ。

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私自身、キャリアのスタートは零細編プロだった。編プロは100人を超すような有名どころから、1~3人で細々と営業している超零細まで様々だ。

私が所属していた編プロは10人程度だったので、社会的には超零細企業だが、編プロ業界では中規模ではあった。

そこの社長はなぜか大手出版社と強いパスがあって、おかげで仕事が切れることはなかった。

とは言っても、出版社から押し付けられる仕事はろくなものではない。大手出版社の編集者が自分ではやりたくないような仕事が、アウトソーシングとしてこちらに飛ばされてくる。

しかも単価も驚くほど安く、スタッフの年収は平均250万円程度だった。
20代なら200万円台前半、40代でも300万円に届かず、まったく夢がない。

文章を書くのには資格も必要ないので、競争が激しく、出版社からしてみたら仕事を依頼する編プロはいくらでもあるので、単価を上げる必要がないのだからしょうがない。

そのため無茶な企画を、短い納期で、さらに低価格で依頼されても断ることなんかできない。
年末年始に入るタイミングで原稿の確認(校正)を依頼され、正月休み明けに提出を求められる。
編プロで働いていた時は、まともに正月休みをとったことがなかった。

一方で大手出版社の人間は自分でスケジュールを管理でき、口では「忙しい」とか言いながらもこちらからはどうしてもそうは見えない。

昼頃に出社して、19時には飲みに出ていく。編集という同じような仕事をしていても、彼らは1000万円超の高給とりだった。

これには当時はまだ社会構造に疎かった20代の私でも「何かがおかしい…」と疑問を抱くまでにそう時間はかからなかった。

最下層:ライター

そんな編プロよりもさらに力が弱く、出版業界の最下層に位置するのがライターだ。

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編プロが業務多忙の際は、外部のフリーライターに仕事を振り分けることがあり、こうしたおこぼれで食べていっている。

もちろん有名ライターや実力派ライターも存在し、彼らは業界で存在感を発揮し、大手の出版社やWebメディアと契約した上で安定したギャランティを稼いでいる。

一方でここ10年くらいでページビュー(PV)による広告モデルの零細Webメディアが有象無象に乱立し、ギャラの安いライターに誰でも書けるような仕事を発注している。

そのためプロか素人か見分けのつかないグレーなライターが雨後の筍のようにあふれて出てきた。

そのためDeNAが運営していた医療系まとめサイト「WELQ」のような社会問題化した事案も起きている。

「WELQ」では外部の素人ライターが小遣い稼ぎで執筆を担当した結果、無断転載や信憑性の低い情報が多数確認され問題になり、結局サイトは閉鎖に追い込まれた。

しかし「WELQ」以外にもほんの少しだけまともだけど、似たようなビジネスモデルのサイトはたくさん存在している。
これによりプロのライターと素人のライターの垣根は消失しつつあり、その結果、ライター同士の競争は激化。1文字あたりの執筆単価もどんどん下がっている。

私の知り合いでは企業勤めに疲れたのか、はたまた自由が欲しかったのか、出版社を退職し、フリーのライターに転身した人がけっこうな数でいる。

彼らは出版社時代と比べると決して稼ぎが良いとは言えず、嫌で辞めていった自分の古巣に対して営業活動をしなければならない羽目に陥っている。

出版社の編集者にとって、独立の選択肢にはフリーのライターや、もしくは編集プロダクションの立ち上げなどがあるが、業界のビジネスモデルとしては稼げないことが明白なので、会社を辞めたいと思っている人も「でも会社辞めてフリーのライターになってもなぁ」と、思い止まらざるを得ない状況がある。

最後に

こうしたブログを書くと「書店は出版社より下じゃない! バカにするな!」とお叱りを受けるだろう。
または「著者なんか選びたい放題。編集者の方が立場的に有利だろ」という同業者からの指摘もあるかもしれない。

もちろん出版業界と一括りにいっても、ジャンルは様々でマンガから小説、教科書から学術書まで幅が広い。
分野が違えば業界構造も変わるので一概にまとめることはできない。

ただし私は編プロ時代に様々な出版社(一般書から経済・マネーの分野、または資格書や児童書まで)に出入りしていた経験があり、業界人であれば頷いていただける点が多いだろう。

今から出版業界に入ろうと思う人は、こうした状況も確認したうえで就職活動なり、転職する際の参考としてもらえるとうれしい。