5万部売れたらヒットと言われるビジネス書で、すでに20万部のベストセラーとなっている本書。
著者が投資銀行やコンサル会社で接してきた仕事ができる世界中グローバルエリートの特徴をまとめており、それこそメールの書き方やメモの取り方、資料づくりなどのビジネスの基本から、学習習慣や周囲に信頼されることの重要性まで幅広く、提示しています。
書籍の冒頭で「文書の細部、句読点の一字一句に至るまで、すべて私自身がこだわり抜いて書き綴ったものだ」と宣言している通り、なかなかの力作に仕上がっています。
新入社員には教科書のような書籍
Amazonの評価はどうでしょうか。
2017年6月23日現在、星5つが43個、星1つが27個と評価が割れています。
肯定的な意見の多くは、「読みやすい」「わかりやすい」「勉強になる」というもの。一方で否定的な意見としては「内容が薄い」「平凡」「当たり前のことを言っているだけ」というもの。
なぜこのように評価が分かれるのか、実際に読んでみて理解できました。
本書はいかんせん読者層を広く想定して書かれているので、どの仕事にも共通するような働き方の基本姿勢に重点が置かれています。そうなると多くのビジネス書や自己啓発書を読破してきた玄人の読者からすると、9割以上の内容が既視感として感じられしまうかもしれません。これは本書に限らず汎用性を重視したビジネス書の宿命とも言えます。
その一方で、本書は新入社員やこれから社会に出るような若い読者にとっては、教科書にもなれる書籍です。Amazonのレビューで「仕事の鞄の中にいつも入れておきたい一冊」と評している方がいましたが、他のビジネス書よりも読みやすく、わかりやすく書かれているので、普段それほど読書習慣がない人も、最後まで飽きずに読むことができるでしょう。
以下、本書の内容の一部をAmazonから引用する形で紹介しておきます。
本書の内容の一部
【メール】即リプライは「すぐできる仕事を後回しにしない」姿勢の象徴
【メモのとり方】漏れのないピラミッド構造は「論理的思考能力」の証し
【資料づくり】「一枚、一行、一言で要約できない資料」は不要
【会話術】声は人格を表す――「いい声とアクティブリスニング」を忘れない
【プレゼン】MECE,フレームワークに鉄拳制裁を! 最後は読み手の好み次第
【ストレス対策】「心のストレス積立金」を積んで、やり過ごせ
【人間関係】 「ギブ・アンド・ギブ」で、とにかく相手に得をさせる
【時間管理】「タイム・アロケーション」が最も大切な決断
【学習習慣】自分の進化版2.0を目指す
【仕事の心構え】雑学ではなく、哲学のある仕事をせよ
【レガシー】あなたが会社を去っても、会社に残るものは何か?
【信頼を大切にする】信頼の貯金をせよ――短期の利益より、長期の信頼
【部下を伸ばす】部下の市場価値を高め、自己実現を支援せよ
【自己実現】「勝てる分野」で勝負し、やりたいことは1つに絞らない
【エリートトラップ】他人軸ではなく、絶対的な自分軸で判断
一流の人は「一流のトーン」で話す
私自身は本書から下記3点を再認識できたので購入したかいがあったかなと。
・一流の人は「一流のトーン」で話す
・「ギブ・アンド・ギブ」で、とにかく相手に得をさせる
どれも当たり前のことですよね。ただ日々忙しくしていると、なかなか実践するのは難しい。資料も「まあこれでいいか」で済ませていると、実際に社内会議や営業先で資料説明を行った時に、自分で資料を読み上げながら初めて誤字脱字を発見し、謝罪するはめになります。
このようなつまらないミスによって説得力は失われ、場が白けてしまいます。
また一流の人は「一流のトーン」で話すというのは、本書を読む前から意識していたことでした。ただこれも練習を積み重ねないとなかなかできません。プレゼンでは内容よりもむしろ姿勢や声が大事だと言われています。時間があったら下記エントリーも暇つぶしにどうぞ。
そして3点目。このギブ・アンド・ギブの精神も分かっちゃいるけど、なかなか持てない。
面倒な仕事を同僚や後輩に何とか押し付けることに必死になっている人の方が世の中多いでしょう。
そして残念なことに、仕事を断れずに頑張ってしまう「良い人」が会社からたいして評価されないのに、要領の良く仕事を振っている人の方が先に昇進していくケースが現実のビジネスシーンではたびたび目撃されます。
それでも我々が知らないグローバルエリートの世界で、人徳のある人間が出世していくという話を著者の体験談として聞くことで、我々は「自分も正しい行いを続けて行こう」と勇気を持つことができます。
なぜか著者経歴が明記されず、登場人物は仮名だらけ
さて、最後に本書に注文をつけるとしたら、「著者紹介」で著者が在籍した企業名が一切明かされていない点でしょうか。理由は不明ですがこの著者の方は顔出しでテレビに出演したこともあるようですが、経歴を外資系金融機関だとかプライベート・エクイティ・ファンドという表現にとどめています。
また本文でも登場人物の多くが仮名です。
「某著名投資ファンド代表の清家さん(仮名・49歳)」とか「アフリカ某国の恐ろしくハンサムな元投資銀行家の友人」とか「ロンドンの某巨大多国籍企業でチャリティの仕事をしている女性・ステファニー(仮名・30歳)」など、褒めている内容にもかかわらずなぜか皆が仮名です。「ちゃんと実在するんですよね?」と聞きたくなります。
第三章の章末コラム欄で紹介されるアントニオ猪木氏だけは実名ですが、どうせなら「極東某国の元大物プロレスラーで政治家の……」と紹介してくれた方が一貫性を感じます。
Amazonの書評でもこの点についてツッコミが入っていましたが、これだけ力の入った作品なので、著者の経歴も全て明かした上で、登場人物も全員から許可を受けたうえで実名で紹介した方が断然説得力が増します。そこがちょっともったいないと感じました。
「じゃあ仮名でブログを書いているお前はどうなんだ」なんて言われたら、返す言葉がありませんが。
ではでは。