タイトルが少々煽り気味ではあるけれども良書
先日職場の先輩から「北斗さん、これぜひ読んでみて」とある一冊の本を手渡されました。
それがこちらの書籍『小児科医の僕が伝えたい最高の子育て』です。
Amazonの幼児教育カテゴリーでベストセラーとなっていたし、けっこう売れています。書店で見かけた方も多いかもしれませんね。
ついでに言っておくと私は普段いわゆる「育児書」というのはあまり手に取ってきませんでした。
子育てしているのでもちろん何冊か読んだことはありますが、どの書籍も当たり前の理想論やきれいごとを振りかざしていて、「そりゃそうだろうけど…」で止まってしまう。
むしろ「子育ては思い通りにいかないもの」として受け入れた方が自然だと思っていました。
ただし、いちおう職場の先輩から薦められた手前、読後の感想を伝えるの必要があるということで、これを機会に読んでみることにしたのです。
人間の能力は持って生まれた遺伝子によって能力が決まる
ところでこの書籍、「最高の子育て」なんてタイトルからして煽っていますよね。
そのためやや斜に構えて読んでみたのですが…結論が述べると子育て世代にはおススメの一冊でした。
まず単純な理想論は述べられていません。
むしろ「子どもの能力は遺伝子が大きく作用しているので、過度な期待はするべきでない」という専門家としての冷静な主張が中心です。
人間の能力は持って生まれた遺伝子によって、背の高さ、お酒の強さ、運動神経などがほとんど決まってしまう。
もちろん「多少のゆとり」はあるものの、親の特性が子にシンプルに伝わるとのこと。
つまり「トンビがタカを生むことはない」と断言します。
ここまで断言されると逆にちょっとショックです。「そりゃわかっちゃいたけど」と。
ただし著者が伝えたいのは、だから「子どもに期待するな」とか「努力なんて無意味だ」ということではありません。
著者の主張はむしろ子供には親のやらせたいことを押し付けたりするのではなく、ゆっくり見守り、子どもの能力を開花するのを待つことが重要だと説きます。
「焦らなくていい、慌てなくていい、肩の力を抜いていい」というように繰り返し諭します。
子供を温かく見守るのが大事なんだって
多くの育児書だと、「こうこうこうして子ども能力を引き出してあげましょう」という論調が多い中、焦らなくていいだなんて子育て中の親にとっては心が安らぐ言葉ではないでしょうか。
だって親なら「自分の子供に輝いてほしい」と思いますよね。
しかし我が子の得意なことはいったい何なのか。
子どもの能力を発掘すべく、英語にスイミングに公文にピアノにサッカーにと先回りし、走り回ってしまうもの。
わかっているつもりでもついジタバタしてしまう。私もまぎれもないその一人です。
でも本書を読んだことで、子供を温かく見守ろう、良いところをたくさんほめて、一緒にいられることに感謝して、とすっかり心を入れ替えた気持ちになりました。
しかし、しかしなのです。
その一方で気になる点もあります。
文章を追っていくと、先生のお父さんは一流大学卒であり、お子さんもお医者さんになっていることが描かれています。つまり三世代にわたってとても優秀なことが読み取れます。
そうなると「先生のお子さんは優秀な遺伝子でよかったですね」「そりゃ大きな心で子どもの成長を見守れるはずだわ」なんて憎まれ口が浮かんでしまう。
私のような平凡な親から生まれた平凡な遺伝子を持つ子供はどうやって輝けばいいのだろうか。
多くの親が子供の思う通りにやらせたい。でもそれでもうまくいかないからなんとかしたいと思っているのではないでしょうか。
子どもの心のスイッチを入れる
ただしここに対しても本書にはヒントはあって、たしかに著者の先生の息子さんにしても単に優秀ではなくて、成長の踊り場はあったとのこと。
それで息子さんが高校生の時に学校を休ませてまで、海外の学会に連れていくという荒業をしています。
この経験のあとに海外で働く医師に感化され、息子さんも医者になる決意をしたそう。
これはつまり、子どもの心のスイッチを入れるための親の作戦だったのでしょう。
一方で我が家は今日もまた、温かく広い心で子供を見守ろうという気持ちと、目の前の子供にため息をつきたくなる日々。
子育ての葛藤はまだま終わりそうにありませんが、 子育て中の心の持ちようを一度見直すにはもってこいの本だと思います。
なぜ本書がベストセラーになったのか
ところでこの書籍、全体を通してとにかく著者の語り口が優しいです。そして温かい。私がこの本が売れたのはこの著者が持つ性根の優しが、本文からあふれており、それが親世代の読者の心を掴んだのだと思います。
男性が書いているとは思えない母性にあふれた言葉が、普段育児や教育に悩む親の心に寄り添います。
私も「近所の小児科にこんな優しい先生がいてくれたらいいな」と思いました。
そして最後に伝えておきますが、小児科の専門医が書いた本ということで、本文のところどころで病気の子供のエピソードが出てきます。
これがまた泣けます。間違いなく泣ける。子育て中の身には子どもの病気は決して他人事には思えない。涙なしでは読めません。
子育ての現実について専門家として事実を、しかし語り口は愛情のこもった優しい表現で綴られた一冊なので、アマゾンのレビューが軒並み高評価なのも頷けます。
多くの読者が私と同様に著者の言葉に共感したのでしょう。
以上、今回久しぶりの書評でした。