町の小さな病院(クリニックや診療所と呼ばれている)の看板に病院名の上に「医療法人●●会」などと記載されているのを見かけたことはないだろうか。
私も以前、風邪をひいて病院を訪れた際に看板を見て「これどういう意味なんだろう?」と引っかかっていた。
患者の立場だと病院は病院名で呼ぶ。そのクリニックや診療所を「医療法人●●会」なんて呼び方はまずしないだろう。どういう意味なのか漠然と疑問に感じていたからだ。
ただしこれまでは私も深く考えずに「個人経営のクリニックも実は大きな病院グループに属していて、支店のような形で経営されているのだろうか」なんて的外れな想像をしていた。
なぜ病院を医療法人化するのか
しかし調べてみると、そこはやはり大人の事情があるようだ。
「医療法人●●会」とは、その診療所を法人化していることを意味する。大きな病院の支店とかでなく、設立した診療所の開業医である院長が経営しているだけだ。
医療法人化することは何も難しいことはない。家族を役員名簿に記載して申請するだけでたいては認められる。
そしてなぜ法人化するのかというと、その答えは節税によるメリットが大きいからだ。医療法人化の目的はほぼこれだけといっていいかもしれない。
個人事業から脱して医療法人化する一番のメリットは、相続税がかからないことだろう。町のクリニックでは親子で病院を経営しているケースが多々ある。
たいてはおじいちゃん医師がいて、もう一人跡継ぎの息子医師がいて、親子二人で患者さんを診療するというスタイルだ。
医療法人が所有する病院やその中にある高額な医療機器は、資産としての価値はとても高いが、もし個人事業であれば開業医であるおじいちゃん医師が亡くなってしまった時に、これらの資産に対して相続税が発生してしまう。
しかし医療法人化している場合は、おじいちゃん医師が亡くなっても形式上は、跡継ぎの息子医師に役員が交代するだけだ。実質的には家族間で父親から息子へ莫大な遺産が相続されているのだが、名目上は何一つ息子医師は受け取っていないことになる。
また医療法人は固定資産税もかからない。たとえ駅前の一等地にクリニックがあったとしても固定資産税は免除される。同じ場所にもし一般の企業の建物があれば多額の固定資産税が徴収されるところだが、医療法人ということで支払わなくて済むのだ。
医者の節税方法
そもそも医者、とくに開業医は平均的に収入が高い職業なので、当然節税意識も高くなる。節税しないと所得税だけでも毎年多額の税金が課されてしまうからだ。
それが医療法人化するだけで多くの問題が解消される。院長である本人の所得税についても、法人化していれば病院から支給される「給与」として支払われるため、最大230万円の給与所得控除を受けることができる。つまり230万円に対しては何の税金もかからない。
また家族を理事にして、理事報酬を支払うことで院長の自分の給与を抑えて家族に報酬を分散することができる。理事それぞれが給与所得控除を受けることができるからだ。
そうすることで家族単位で見た場合の収入は同額でも、医療法人化して家族に理事報酬を分散することで、課税額を小さく抑えることができるカラクリになっている。
お医者さんの退職金のカラクリ
また医療法人では、生命保険の途中解約を利用した退職金の準備ができるのもメリットだ。
これはどういうカラクリかというと、医療法人の場合、保険料のうち半額は医療法人の経費から払うことができるようになっている。経費として処理することが許されれば、その分、利益を少なくすることができるので、利益に課される税金もそれだけ少なく済む。
そして一定年数経過後、この生命保険を解約することで支払った保険料の同額かもしくは支払額以上の金額に相当する解約返戻金を受けることができる。開業医は節税しながらこの解約返戻金を退職金の代わりとしているのだ。
もちろん生命保険なので、加入中に病気や事故など万が一のことが起きた場合にも保険金が支払われることになる。利用しなければ損というレベルのとてもお得な制度だ。
開業医は投資用マンションを大人買いする
こうした背景を知ると、病気になって医者に診てもらう時も、院長に対する見方が変わってくるというものだ。
もちろん医療は純然たる慈善事業というわけではなく、儲からないことには病院経営を維持できないし、そもそも優秀な若者が医者になろうとしないだろう。
医療法人化による節税についても、活用できる制度は活用すべきだし、合法の範囲では批判されるべきものではない。
最後に話は変わるが、少し前に不動産業者から聞いた話をお伝えしておこう。その不動産業者は都内のワンルームマンションの販売・管理を行っているのだが、投資用マンションの有力顧客の職業の1つが、開業医の医者ということだ。
新築のマンションができるとろくに現地での物件確認もせずに、2部屋、3部屋をまとめて購入していくという。これぞ「大人買い」というものだろう。開業医はそれだけお金が余っており、投資先を探している状態のようだ。