2017年6月に発売された書籍『血を繋げる。 勝利の本質を知る、アントラーズの真髄』が、あまり売れていない、というか話題にもなっておらず、びっくりです。
鈴木満氏はJリーグ屈指の強豪である鹿島アントラーズの強化部長を20年も務めている方です。Jリーグが開始される前は鹿島2部の弱小クラブで、茨城の鹿嶋市という人口も少なく地理的に不利な場所にあったところからスタートしました。
本書はいかにしてここから鹿島アントラーズを常勝集団にしたのかが明らかにされています。
本書では、元日本代表の柳沢敦や内田篤人が寄せたメッセージも収載されていますが、関係者の誰もが、「現在の鹿島アントラーズを創り、支えてきたのはマンさん(著者の愛称)」と認めています。著者はそれほど鹿島、というかJリーグの重要人物なんですね。
Jリーグの強豪チームと言えば、かつてはヴェルディやジュビロ磐田、2000年に入ってからはガンバ大阪や浦和レッズあたりですが、どのチームも浮き沈みがあります。その中で鹿島アントラーズほど安定して強豪クラブとしてタイトルを取得し、また優勝争いに絡み続けているチームはありません。
いったい鹿島アントラーズは他のJリーグのチームとどう違うのか? また著者の鈴木満氏が1993年のJリーグ開幕から20年以上の間、強化部長としてどうやってチーム作りに取り組んできたのでしょうか。この答えが本書にはあります。細かい練習メニューやスカウトの手法は記載されていませんが、チーム強化の本質が理解できる内容になっています。
もっと売れていい、読まれていい一冊
サッカーやスポーツクラブ運営に全く興味ないという方は、本エントリーはそっ閉じをお願いしますが、本書はもっと売れるべきだし、話題になるべき1冊です。
事実、Amazonの評価は2017年10月末時点で、レビュー数15件に対して★はほぼ満点です。それほど読んだ人の満足感が高い1冊なっています。
そもそも著者の鈴木満氏は、日本サッカー界の重要人物であるにもかかわらずメディアにはあまり姿を見せません。さらに本人が執筆した著書となるとこの書籍だけになるので、そういう意味でも貴重な一冊です。
とくに鹿島アントラーズのファンはもちろんですが、Jリーグに興味がある人であれば、本書を読むことでクラブ経営の本質が理解できます。
なぜ鹿島では内紛が起きないのか
私が本書を読む前から常々知りたかったのは、なぜ鹿島アントラーズは内紛が発生しないのかということです。たいては選手と監督、現場とフロント、サポーターとクラブという対立構造の中、ぶつかり合いや軋轢が生じるものです。
しかし鹿島アントラーズはいくら強豪といえど、サポーターがクラブに対して大々的に批判するなど聞いたことがありません。またフロントとケンカ別れしてチームを去っていく選手もいない。
海外への扉をこじ開けた内田篤人や大迫勇也などはもちろん、元日本代表で戦力外通告を受けた秋田豊や岩政大樹なども、アントラーズを去る時にクラブに対して文句を言うことはありませんでした。むしろ引退後もクラブと良好な関係を築いています。
本書では、たとえ戦力外を通告する場合でも、できる限り移籍先をクラブ主導で探すようにしていると書かれています。こうした選手を大事にするクラブの姿勢を選手も理解しているから、もめることが少ないのでしょう。
また海外のクラブに移籍した内田篤人や大迫勇也はオフで帰国すれば鹿島までクラブに挨拶に出向いていることもよく知られています。内田はシャルケでケガした時もアントラーズで治療するなど、クラブに対してとくに密接な関係を続けています。
こうしたファミリー的なクラブの雰囲気が、集団の結束力を高めてチームとしての力になります。またファンというものはそういった空気を敏感に感じ取るものですし、その結果一層クラブを応援するようになります。
Jリーグの関係者はもちろん、日本のサッカーファンも本書を読むことで、日本サッカーの発展につながると思わせる1冊です。