東洋経済と週刊文春が全面対決となっており、私もいち出版関係者としてこの戦いを、低みの見物をしております。
もともとは、文春側が、8月9日発売の「週刊文春」で「東洋経済オンラインは下ネタ中心で2億PV稼いでる」と内部告発の声をもとに報じたことがきっかけです。
すると、当日中に間髪入れず東洋経済もその「東洋経済オンライン」上で怒りの反論を行いました。
「うちの記事は下ネタ中心ではない」と。
その後のアクションは今のところ見られませんが、訴訟騒ぎまでは展開しないでしょう。
社員のインタビューとコメントをもとに取材記事が作成されているので、細部の表現で引っかかる個所があっても、根本的に事実誤認の記事とはならないと思います。
東洋経済の人気記事が下ネタ中心であるのは否定できないだろ
今頃、東洋経済の社内では、「誰が内部告発したんだ」と犯人捜しをしているでしょうね。あるいはすでに犯人の目星はついていて、社内で噂になっているかもしれない。
いずれにせよ、いくら東洋経済がWeb上で反論や否定しても、私はメディア関係者として、概ね文春側の内容の通りだと受け取っています。
週刊文春では、東洋経済の内部資料を通して、以下のように人気記事が下ネタ中心であると主張しています。
ここに小誌が入手した東洋経済新報社の内部資料がある。〈週間TOP20ランキング〉と題されたペーパーだ。ここには記事の人気ランキングとPV数が記載されている。たとえば〈2017/7/10~2017/7/13〉のベスト3は次の通りだ。
1〈妻からも見放された34歳男性派遣社員の辛酸〉(PV1,353,427)
2〈独身女性が48歳でAV女優デビューした理由〉(PV885,365)
3〈「親が貧しい子」は勉強でどれだけ不利なのか〉(PV821,426)
そして記事では、
トップ20を見ても経済記事は4、5本だ。他の週のランキングを見ても安定して下ネタ、貧困、ライフネタ記事などが上位を占めている。
とまとめていますが、これはその通りですね。
今日時点の東洋経済オンラインの月間ランキングをみても、まともな経済記事はベスト5には入っていません。
もう東洋経済は硬派ぶらない方が良い。Webサイトについては割り切って、下ネタ中心で行った方が気持ちが楽になるってものです。事実、その方向へ進んでいるようですし。
Web運営のあるある
でも東洋経済は悪くないです。なぜなら悲しいことに真面目な経済記事をいくら書いたってネットでは誰も読んでくれません。これらの記事は公開した瞬間に広大なネット空間にチリとなって消えていってしまうのです。
そして残念なことにエロや貧困系の話の方が、断然アクセスが良い。
私もマネー系のWebサイトを運営していたことがあるので、東洋経済オンライン編集部の内部の状況が容易に想像できます。
特に私が「これはWeb運営のあるあるだな」と共感したのが、以下の個所です。
「『オンライン』の記事を『ヤフー』などに配信した場合、この記事を『関連記事』としてリンクさせることが多いのです。ウチの記事がヤフーニュースのトピックス欄(通称ヤフトピ)に取り上げられても、PVはヤフーにカウントされる。そこで『関連記事』というリンクを付けて読者を東洋経済オンラインに誘導する。AVなどの下ネタ記事を『関連記事』に指定し、PVを稼いでいるのです」(若手編集者)
これは私の携わったWebメディアでも同じようなことをしていました。
リンクが押される「記事タイトル」って特定の何本かに決まってきます。
だから複数のニュースの関連記事に、同じ記事を表示します。
人気記事は読者のクリック率が違いますから。
現在国内で展開するWebニュースサイトで最もユーザーを集めているのが、Yahoo!ニュースです。
そのため多くのWebメディアは、Yahoo!ニュースへ自社サイトのニュースを提供する代わりに、Yahoo!からユーザーを自社サイトに呼び込みをさせてもらっているのです。
ニュースを提供すると、それ自体でもYahoo!からほんの少しだけお金がもらえます。でもそれは謝礼程度ですね。でもそんな報酬より、ユーザーのアクセスを増やすことの方が比較にならないほど大事です。
自社のPV(ページビュー)を増やすことに成功すれば、自社のWebサイトの広告から収入を得ることができます。
広告主はたくさんの読者数をもつWebサイトに出稿したいと考えますから、広告枠を拡大していくには、まずアクセスが必要です。
自社広告にも役立ちますね。東洋経済の新刊情報をトップページに貼っておけば、何%かの確率でクリックされて売れていきます。
またYahoo!ニュースから流れてきたユーザーを自社サイトの会員の誘導に成功すれば、会員向けのメールマガジン(メルマガ)の発行数も増えます。そうすると、メルマガの広告枠の単価も上がります。
さらに会員が増えることで、例えばマネー系の有料セミナーを行う際には集客ツールにもなります。
このようにとにかくアクセスさえ増えれば、Webサイトはマネタイズが可能になるのです。
PV急伸の裏に下ネタ系の記事あり
そのためWebサイト運営側は、ついついPV重視に傾注していきます。
これは硬派雑誌を謳っていた東洋経済も例外ではなかったというこです。
その兆候は、実は2012年に前編集長の佐々木紀彦氏の下で、企業の業績予想記事を中心だったWebサイトの内容を大幅にリニューアルしたところから始まっています。
東洋経済オンラインの前編集長である佐々木紀彦氏はネットメディア界ではとても有名人です。書籍中心だった出版業界にあって、短期間でWebサイトを急成長させた次世代の編集者として注目されていました。
下記書籍は、2013年7月刊行書籍ですが、いまでも内容は色あせていません。東洋経済オンラインのマネタイズ方法ほか、あまり表に出ていなかった国内外のWebメディア事情についても詳しく書かれています。
この人が2014年7月に新興のWebニュースメディア「NewsPicks」へ移籍したときは業界に激震が走りました。NewsPicksの勢いを感じるとともに、「東洋経済オンラインは終わっちゃうかもね」なんて。
それから3年が経って、そうした予想を裏切り、東洋経済オンラインは、佐々木氏時代の4倍強までPVを伸ばしました。
これ自体はすごいことです。東洋経済の社内でも次代の収益の柱と見据えて、全社的に取り組まないとこの規模では成長しません。
ただしPV急伸の裏には、下ネタ系の記事の活躍は欠かせなかったのでしょう。
東洋経済がPV重視なら読者は離れていく
私自身は東洋経済がエロ記事を取り扱っても何の問題もないですけどね。そもそも投資家からしたら、東洋経済はすでにお堅い経済系出版社というイメージはないです。
紙の週刊東洋経済もメイン特集が「あなたとペットの大問題」(2016年9月10日号)とか「高校野球 熱狂の表裏」(2016年8月6日号)など「経済と関係ないだろ!」と思わずつっこみたくなる内容を扱っていますからね。
ただしこうした内容を扱っていると、東洋経済オンラインの想定読者である「39歳の係長~部長で、預貯金2000万円以上のハイクラス」は離れていくでしょうね。
マス向けにWebサイトを展開しようとする方向性と、専門的な経済系の記事って決して相性は良くないですから。
ではでは。