「年収が800万円を超えると幸福度は下がっていく」なんて話を皆さんも聞いたことがあるかもしれません。
年収と幸福度の関係については、米プリンストン大学のAngus Deaton教授の調査がよく引用されます。
GIGAZINEのこちらの記事に詳しく紹介されているので参考になります。
この調査の要点は、以下です。
プリンストン大学の調査により、世帯年収が7万5000ドル(約631万円)以下の人では収入と「喜び」や「満足感」といった感情は比例するのに対し、7万5000ドルを超えると「稼げば稼ぐほどハッピーになれる」というわけではなくなってしまうことが明らかになりました。
この記事は2010年9月に書かれたものなので、「7万5000ドル(約631万円)」と記載されていますが、2017年7月現在の為替相場(1ドル=110円)に換算すると、825万円です。
そのため為替相場によって変動はありますが、600万円~900万円ぐらいで、年収面での満足感が満たされ、それ以上稼いでも、あまり幸福度は上がらなるということでしょうか。
限界効用とは?
こういったケースは、実は年収と幸福度に限ったことではありません。
食事ひとつとっても例えることが可能です。
A5ランクの焼き肉や、築地の高級寿司だって、最初の一口は頬が落ちそうになるぐらい美味しく感じますが、食事が進んでいくにしたがって、お腹も満たされ、食べるごとに美味しかった感動は薄れていきます。
さらに食べ続けていくと、しまいには気持ちが悪くなってしまいます。
このように消費量が増えるとともに、効用が徐々に緩やかになっていくことを、経済学の世界で限界効用と呼びます。
図表で見てみるとイメージが理解しやすいです。消費量が増えるとともに曲線が緩やかになり、効用が薄れていっています。
年収1000万円超でも幸福度は感じない
米プリンストン大学 Angus Deaton教授の主張である年収と幸福度の関係は、この「限界効用」と関連付けて捉えることができます。
私自身の経験でも年収250万円だった時は、生活がけっこう苦しくて、何とか年収を増やせないかと困っていました。健康で仕事があるというだけでも幸せを感じるべきかもしれませんが、周囲の友人と比べても低収入であることに満足できず、もがいていました。
何とか年収500万円に達した時、生活は十分成り立つようになりましたが、貯金が少ない中、同時期に結婚したことで、将来に向けて少しでもお金を貯める必要がありました。
そのため小遣いは3万円でしたが、それも仕事のつきあいの飲み代に消えていきます。自分の趣味や娯楽にかけるお金は十分とは言えず、やはり満たされていませんでした。戸建て住宅やクルマなど、当時買いたくても買えないものがたくさんありました。
そして資格をとったり、転職したりと行動した結果、とうとう年収が1000万円を超えました。その過程で家を買い、クルマも購入しました。
その結果、私の幸福度はどうなったかというと、残念ながら幸福ではありません。不幸とは感じていませんが、特段幸福感もありません。
ランボルギーニを買うまでは幸せになれない?
欲しいモノだってまだあります。例えば、その中の1つがスーパーカーのランボルギーニです。
私は子どもの頃からスーパーカーに憧れており、とくにランボルギーニが好きでした。
現在国産車を所有していますが、今でもいつかランボルギーニに乗ってみたいという願望があります。これはけっこう真剣な願望です。
もちろん贅沢な悩みだというのは自覚しています。ランボルギーニなんて興味のない人からしたら、乗りづらくて、うるさいだけのクルマでしょう。
ただこれは趣味の世界なので、好きなのだからしょうがないです。好きという気持ちは止められません。
ただしランボルギーニを購入し、維持するには年収5000万円くらい必要かもしれません。
すると、今の1000万円超の年収もまだまだ低いし、足りません。
そのため私に限っては、Angus Deaton教授の定義した7万5000ドル(約825万円)では満足できないことになります。
7万5000ドルは幸福を感じる「しきい値」ではない
と、ここまで書いて浮かんだのは、いつかランボルギーニを購入できるようになったとして、はたして私は幸せになれるのかという疑問です。
もし感じられなかったら、それこそ、年収の伸びと比較して、幸福度は緩やかに上昇が止まり、限界効用の曲線に当てはまることになります。
いくら稼いでも、次から次へと人間の欲望に天井はない。むしろなぜ「満足できないのか」と自分でも疑問に思い、満たされない自分の欲深さに嫌悪感を感じてしまう。自己嫌悪に陥るぐらいだから、当然のことながら幸福は感じにくいはずです。
つまり「年収と幸福度」の研究結果は、「年収7万5000ドルに達すると満足度が最高潮に達し、高止まりになる」という意味では決してなく、お金を稼ぐほど、満足できないという真実を知り、苦しむことなのかもしれません。
お金がなくても幸せを感じられる人もいます。こういう人は羨ましいですね。一方でお金がないことで不幸だと感じている人は、いくらお金があっても満足できない可能性があります。
幸福感に満たされるポイントをしきい値とします。もちろん年収3万ドルよりは、年収7万5000ドルの方が、幸福度は高くしきい値に近づくでしょう。
しかし私も含めて満足できない人々にとっては、この7万5000ドルはそもそも幸福を感じられるしきい値には達しておらず、同時にいくら稼いでも、幸福のしきい値に到達することなく、曲線の上昇が終わってしまうのかもしれません。