最近ではすっかりランニングブームが定着し、各地でマラソン大会が盛んに開催されている。
これらのマラソン大会を、計測システムを提供することで下支えしているのが株式会社アールビーズという企業だ。
国内イベントの計測システム提供ではシェア90%のほぼ独占企業だ。
またランニングが趣味の人ならご存じだろうが、国内のマラソン大会は「RUNNET」というWebサイトから大会エントリーを求められることが多い。実はこのWebサイトを運営しているのも同じくアールビーズなのだ。
いまや日本のマラソン大会をシステム的に支える存在となっている同社だが、もともとは出版社だ。いや今でもれっきとした出版社であり、スポーツ専門誌「ランナーズ」を毎月発行している。
しかし以前同社が明かした情報によると、全体の売り上げに占める出版業の割合は3割程度で、イベント運営や物販が収益の中心となっている。
出版業界の関係者なら驚きはしないだろうが、いま出版をやめる出版社が増えているのだ。
もはや出版社ではない「インプレス」
出版をやめるきっかけになったのは、10年以上続いた出版不況による業績不振だ。
大手もきついが、中小規模の出版社の場合、資金的な体力がないので、売上げの落ち込みはそのまま経営を打撃する。
売れない本を作るだけでは、食べていけない。そうであれば出版以外のビジネスに活路を見出すしかない。
WordやExcelソフトをガイドした「できるシリーズ」を発行するインプレスも同じような事情だろう。同シリーズは累計7,000万部を発行してきたが、こういったIT系書籍はデジタル化が進むにつれ、ユーザーのITリテラシーが高くなることで、需要が下がり、売れなくなる傾向がある。
同社はこの流れを早くから察知したことで、今では完全に出版社の枠から脱した感がある。
例えばWeb担当者Forumや窓の杜など数多くのWebサイトを擁してデジタル媒体から収益を得たり、グループ企業のインプレス総合研究所ではIT業界や電子書籍業界の市場調査や戦略分析などシンクタンクとしてのビジネスを展開している。
海外でも脱出版が加速
こうした流れは、海外でも同様だ。
米国の中堅出版社であるアトランティックメディア社はもともとはオピニオン誌『The Atlantic』を発行することで知られていたが、2012年にビジネスメディア『Quartz(クオーツ)』を開始。世界で2,300万人に読まれているほか、現在はモバイルファーストに主眼を置いており、2016年に提供開始したiOS向けアプリのダウンロード数は34万5,000を数えている。
Quartzは現在、160社にのぼる広告主と取引をしており、そのうちの実に90%が、継続的に出稿する意向を示しているなど、毎年、出稿企業数・出稿金額とも成長を維持してきているという。
そしてこれらの取り組みにより、以前は紙媒体が売り上げの80%を占めていたが、現在はその比率は15%にまで縮小している。
さらに同社は最近になって広告代理店業にも進出している。これは出版業界では珍しい例だ。自らコンテンツを作りながら、キャンペーンを実施し、これに広告を絡ませる取り組みを行っている。米国の大手出版社もこれに追随する動きを見せていると聞く。
出版社にとってのメリットは、自社広告をいかんなく発揮できる点だ。自社の書籍や雑誌の広告枠に、新しいビジネスの宣伝を無料で掲載できる。これは新ビジネスを展開するにあたって恵まれた環境であることを意味する。
大手出版社もビジネスモデル脱却を免れない
10年後、20年後の世の中においても、紙の本はなくなることはないだろうが、需要は徐々に減少していくだろう。いまは紙媒体の収益から従業員へ高い給料を支払っている日本の大手出版社も、娯楽の多様化やデジタル化がさらに進むことで、現状のビジネスモデルからの脱却せざるを得ない状況になるだろう。
業界最大手の講談社は、以前は年間売上高が2,000億円を超えていたが、出版不況の影響を受けて、毎年100億円近く売り上げを落としていき、2016年11月期単独決算では1,172億円を計上している。
同社は電子書籍化にも力を入れているが、私が株主なら「そもそも書籍販売ではない別のビジネスを展開しろー!」と株主総会で叫ぶだろう。
いや、紙媒体中心の出版社の社員である私もこんなブログをのん気に書いている場合ではないはずなのだが。