以前、勤めていた会社で給料が遅配したことがあります。
遅配と言っても正確には、給料日に半分の額が支払われ、その5日後に遅れて残りの半分が支払われるという形でした。
なぜ遅配したかって?
会社にお金がなかったからです。単純な話です。
当時私が勤めていた会社は社員は10人ほどの出版編集プロダクション(以下、編プロ)でした。
編プロは、出版社ではなく、出版社から仕事を請け負って、書籍や雑誌の取材・執筆・編集を代行し、事務所によってはさらに組版まで行ってデータ納品する形態の会社です。
給料が遅配していた時は、私の会社は、発注先の出版社からの入金を待って、給料日から5日後くらいに社長が社員に残りの給料を支払う感じでした。
今から考えるとかなりぎりぎりの自転車操業です。
いつ倒産してもおかしくない状態です。
給料遅配は慣れてしまう
最初に給料が遅配した時は「えっ……」と驚きました。
しかし社長が給料明細を手渡すと同時に、割と明るい感じで「残りは5日後ね!」と言うので、その勢いに負けて「きちんと残りがもらえるならいいか」なんて思っていました。
そして実際に5日後にはきちんと入金されてきました。
そんなことが翌月もその翌月も続きました。
不思議なことに毎月のように給料が遅配し、そして毎月のように全額が支払われるということが続くと、これに慣れてしまい、社員の間には「会社があぶない」という空気は意外とありませんでした。
古い車でも調子が悪いなりによく走る車ってありますよね。「このギーギーいう音にも慣れたなぁ」と。走っているからいいか。そんな感じです。
そしてその編プロは仕事がないというわけではなく、むしろ仕事が山積みの状態で忙しかったです。
仕事に追われているうちは、給料が出ないとは思わないものなのかもしれません。
それでもなぜ仕事がたくさんあるのに社員の給料が出せないのか不思議ですよね。
収益を社長が独り占めしていることはなく、社長もあまりお金がなさそうでした。
その編プロは特徴や特技のある集団ではなかったので、同業他社と差別化を図ることができていなかった。
そのため仕事の単価は常に安かったのです。
不況に喘ぐ出版社からかなり買いたたかれていた状況に加えて、社員数は10人いたので、零細編プロの中では大所帯でした。支出に対して収入が少ない。このアンバランスな状態が財務悪化につながったのかもしれません。
友人は「すぐに転職した方が良い」と強く勧めた
しばらくすると、給料の半額分の遅配は給料日の5日後から10日後に延び、さらに少し期間をおいて15日後になりました。
そこからまたしばらく安定しました。つまり、給料日に半額、その半月後に残りの半額が支給されるというサイクルが出来上がったのです。
このことを大学時代の友人に話すととても驚かれ、「すぐに転職した方が良い」と強く勧められました。ただその会社では誰も給料の遅配の件について、話題にしていませんでした。
給料遅配が生じる前から、あまり会社にお金がないことは毎月の社内ミーティングで社長から聞かされていたし、仕事は常にたくさんあったので、いざ給料が遅配しても、そのうち入ってくるだろう、という感じでした。
そして毎月給料日に半額、その半月後に半額というリズムが続くと、それはそれで家計が管理しやすくなるという一面もありました。
給料日後にたくさん使いすぎることがなくなったのです。生活費を月二回に分けて銀行から引き出すことになるので、ある意味、分散的、計画的な支出が強制的に行われるようになったのです。
そして倒産へ
そうこうするうちに、私はその会社を辞めて、別の出版社に転職が決まりました。
これは給料の遅配が原因というわけではなく、給料の額自体が問題でした。そもそも安月給だったために、当時付き合っていた人(=現在の奥さん)と結婚を考えると、どうにもやっていけないので、転職活動をしていたのです。
私が辞めた後も、何人か社員がその会社を去りましたが、それでもその会社はそんな自転車操業の状態のまま、5~6年はもっていました。
「単価は安くても仕事があるうちは会社はつぶれないんだな」と感心していたところ、いよいよ本当に会社からお金がなくなってしまい、諸々の経費を払えなくなり、残った社員の給料も払えなくなって、倒産してしまいました。
当時の社員の人から聞きましたが、最後の3か月間は給料が出なかったそうです。
ただし、倒産してしまっても、社長やその残っていた人もフリーライターとしてやっていけるスキルと経験があったので、いまは個々にライターとして活動しています。
給料遅配は倒産一歩手前
当時から私はマネー関係の書籍や雑誌を担当してたり、自分自身も株式投資やFXに取り組んでいたので、お金に関心がありました。
けっして無頓着であったわけではなかったのです。
それでも給料遅配というのは、意外と当事者の方がどっしり構えているというか、現実として受け止められるものなんだなと実体験として感じました。私が年齢的に若くて扶養家族がいなかったというのもあるかと思いますが。
ただし、もし現在給料が遅配している会社にお勤めの場合は、やはり転職をおススメします。倒産一歩手前であることは私の経験からも間違いありませんので。