週末5分間 英語クラブ byコツログ

世界のサッカーニュースを英語で学ぶブログです。毎週末更新します。たった5分間ですが内容の濃い英語学習にしましょう。

メディア関係者ならサントリーのビールCM炎上は他人事ではないはずだ

サントリーのビールCMが炎上したようで。

www.buzzfeed.com

子供の頃から長い間、忍耐強く勉強を続け、無事に難関大学に合格し、その後の就職戦線さえも見事に突破したサントリーと電通の優秀な社員たちが、何度も膝を突き合わせて打ち合わせを重ね、知恵を絞りあった結果がこの下品なCMだと思うと、なかなか感慨深いものがある。

ただし、私も出版業界で書籍制作やWebメディアの運営を経験してきたので、炎上を狙いたくなる気持ちもわからないでもない。
書籍だって、いくら良い本を作っても、読まれないと意味がない

著者と二人三脚で半年から1年間、情熱を注いで制作した書籍が、誰にも読まれず、知られることもなく、この世から消えてしまうぐらいだったら、批判されてでもSNSで話題になって、その結果、多くの人に読まれるのならそのほうが良いのではないか、という考えだってあるだろう。

メディア関係者ならば、サントリーのビールCM炎上は他人事ではないと感じたのではないだろうか。

仕事だと割り切って炎上商法へ

炎上ぎりぎりの話題になるレベルを狙うのはメディアの世界ではよくあることだ。

今回のサントリーの炎上とは性質が異なるが、私も一時期、Webメディアの運営に携わっていたことがあり、そこの現場では炎上商法に近い取り組みが行われていた。

そのWebメディアは、スタッフ10人程度の規模の小さなマネー系サイトだった。
出版社では出版不況の中、書籍以外の収入を増やすため、投資的に小規模でWebサイトを立ち上げるケースがある。

私が編集として参加していたWebサイトもこの典型で、社内からはたいして期待はされず、人も金も制限された状況ながら、一方で売上目標は求められ、もし数字が達成されない期間が数か月続くようなら、そのプロジェクトは解散やむなし、というなかなか辛い状況での運営だった。

仕事と割り切って炎上を狙うべきか

経済系のライターや著名な投資評論家に依頼したニュースや記事を集めては、毎日そのサイト上で配信していたが、そう簡単にはアクセスは増えていかない。

どんなに良い内容の文章でも、ネットの世界では読まれないと意味がない。
読まれないとアクセスが増えず、アクセスが増えないと、Webサイトの主要な収入源である広告収入が上がらない。
収益形態によるが、メディア運営でスタッフ10人が食っていくためには、月間1000万PVは必要だ。

そのため私を含めそのニュースサイトのスタッフは収益確保のために、徐々にタイトルを煽るようになっていった。

たとえば「普通の主婦が超カリスマトレーダーになるまでの軌跡を全公開」や「敏腕投資家が経験した凄すぎ伝説」のようなタイトル付けだ。

タイトルを煽っている一方で、肝心のニュースや記事の中身はというと、完全にタイトル負けしていた。そりゃそうだ。常に内容よりも大げさなタイトルにしているのだから。

そのためユーザーが自由に書き込めるコメント欄は毎回のように荒れた。

「こんなくだらない記事、アップしているんじゃねぇ!」というきびしいコメントが並ぶ。

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ユーザーを期待させるだけさせて、内容がこれに伴わないのだから、しょうがない。
ユーザーは騙されたと感じて怒り、中のスタッフは「これは仕事だから」と割り切りつつも、どこか後ろめたさを感じる。そのような状況が続いた。

しかしタイトルを煽った効果は、多少ではあるが、確実に生じる。
そこそこクリックされるので、PV(ページビュー)はそれなりに稼げるのだ。
現場のスタッフはPV獲という目標と、ユーザーからの批判の間で、揺れていた。

読者は失望し、PVは下落していった

しかし、しばらくするとサイトの直帰率が課題として浮き上がってきた。
直帰率とは、クリックしたページだけ読んで、すぐにサイトから離脱してしまうユーザーの行動の割合だ。
これは当然だ。「どんな面白い話が読めるのだろう」とサイトにやってきたユーザーの期待に応えられないのだから、すぐに別のサイトへ逃げられてしまう。

当然だが、タイトルに比べて、肝心の記事の内容が毎回のように負けてしまっているので、読者の失望は積み重なる。
その結果、次第に全体のPVも下がっていった。

いつまでたっても、ファンとなるユーザーが集まらない状況だ。そんなサイトに広告を出そうという企業などほとんどいない。いたとしても大手メディアに広告出稿できない二流、三流の商品しか提供できないお金のない企業だ。

どの業界もどの時代も、一流は一流と組み、三流は三流と組むようにできている。自分たちが一流のメディアにならなければ、まともな企業は相手をしてくれない。

我々のWebサイトはブランディングという意味では最低のレベルだった。
毎週水曜20時から行われるスタッフミーティングは毎回お通夜のような重苦しい空気に包まれた。

中・長期的な視点に立つと、炎上商法はマイナス

結局のところ、その現場で我々は下手な下心でユーザーの関心を得ようとすると火傷をするということを学んだ。
ビール会社のCMも、炎上ぎりぎりを狙うのではなく、もっと別の正攻法で人々の注目を集めることに頭を使うべきだった。

私が携わっていたマネー系のWebメディアは、途中でニッチなユーザーが求める情報を提供することに活路を見出し、方向転換できたことで金融サイトとして今でも生き残っている。しかしあのままタイトルの煽りだけでPVを稼ぐような手法を続けていたら、いま頃はとっくは閉鎖に陥っていただろう。

中・長期的な視点に立つと、一時的にユーザーの関心を集めることに意味がないと気づく。いや意味がないどころか、時間と人の無駄遣いであり、ブランド力を損なう自傷行為だ

企業やメディアが誠実であれば、その効果もまた遅れてやってくるのだろうと思う。サントリーと電通の優秀な人材は今回の炎上でそのことを学んだかもしれない。