全力で住宅ローンの繰上返済に励んでいる人々がいます。
給料やボーナスから繰上返済へ回すお金を優先的に確保し、コツコツ繰上返済に勤しむ。
そして金融機関から送られてくる融資残額が減額された書面を眺めてうっとりとするような人たちです。
自分たちは支払い金利を減らすことで得した気分になっているようですが、残念ながら現実はその逆で、大事なお金を失っているも同然だということに気づいていません。
借金が悪だという呪文の刷り込み
繰上返済に励む人は、小さい頃から家族や教師から「借金だけはしてはいけない」と呪文のように刷り込まれてきたのでしょう。
たしかにテレビドラマや映画、小説やマンガに至るまで、借金にまつわる不幸話って定番のテーマですよね。
競馬やパチンコにはまっサラ金地獄にはまった男が、酒びたりになる。そして自宅で暴力を振るい、妻の財布からお金を抜き出す。妻は「それは赤ん坊のミルク代なの!」と泣き叫び止めようとするが、男は「うるせぇ!」と振り払い、ふたたびパチンコをしに出ていく、なんてお決まりのシーンが目に浮かびます。
こうした借金はたしかに良くないですね。とくに競馬やパチンコは運営者である胴元の取り分が多く、参加者への配分が少ないので儲かりにくい構造になっています。最初から胴元の儲けが多く約束されている分、勝ちにくい仕組みになっているのです。
どの程度が控除されるのかは、詳しくは中公新書「ギャンブルフィーヴァー―依存症と合法化論争」(谷岡一郎)に掲載された資料を元に作成された図表が下記サイトに記載されているようなので興味がある方は参考にしてください。
宝くじで夢を見ようしたら泣きを見る
ギャンブルで一番配分が少ないと言われているのは宝くじで配分率は46%と言われています。1000円を賭けたら強制的に540円は胴元の取り分として搾取されてしまうというわけです。胴元独り勝ちの状況でありながら世間に夢があるとCMで印象づけて「ドリームジャンボ宝くじ」と命名する運営側の倫理観ってどうなんでしょうか。現実には宝くじで夢を見ようしたら、泣きを見ます(キリッ)。
一方で株式投資であれば、手数料が胴元である証券会社の取り分となります。たとえばSBI証券の場合、10万円投資した際の手数料は150円(税込み)ですから、たった0.15%です。株価の変動がなかったとすると、99.85%が配分率となります。勝つか負けるかは個人のスキルですが平均すると、公営ギャンブルと比べ参加者にお金が戻ってくる確率は格段に高くなります。
先日下記のようなエントリーを書いておいて矛盾してしまいますが、ギャンブルやるぐらいなら私は株式投資をおすすめします。
良い借金とはこれ如何に
話が逸れましたが、勝ち目が薄いギャンブルのための借金は悪い借金だということはわかりました。それでは一方で良い借金とは何でしょうか。そもそも良い借金なんて存在するのでしょうか。
資産運用の世界では、良い借金とはその借金の額を上回る収入を生むために投下する資金を指します。例えば投資用不動産で2000万円をローンとして金融機関から借り入れし、家賃収入から高利回りで運用できたら、長期的には3000万円(利益1000万円)、4000万円(利益2000万円)になって返ってきます。
何もしなければ利益はゼロですが、借金することでこのお金を生むことができるのです。ただ実際には不動産投資を高利回りで運用するのはそんなに易しいことではないのですが。
繰上返済よりも資産運用に資金を回すべき
住宅ローンの場合は、居住用なのでそれ自体はお金を生まないことから良い借金とまでは言えないでしょう。
ただし歴史的な低金利が続いている2017年現在は、住宅ローンの変動金利が主要都市銀行の平均が0.7%、ネット銀行であれば平均0.6%程度になっています。最低金利で探せば0.5%台の金融機関もあります。
1980年代には3%程度だったことを考えると、これはものすごい低金利です。ここまで低金利だと、金利の負担を恐れる必要はありません。そして低金利の恩恵をマックスで得たいなら、固定金利ではなく変動金利を選ぶべきです。
ここからが本題ですが、個人投資家の世界では資産運用を年5%を確保、できれば10%で回していければ上出来だとされています。
2000万円を運用するなら、利回り5%なら100万円、10%なら200万円が現実的な資産運用の収益の目安になります。
もちろんリスクの高い金融商品であれば年20~30%で運用できますが、中・長期的に大きな額を扱うようになると攻めるだけでなく、守る必要も出てくるので分散投資が外せなくなり、結果、利回りの低い債券や銀行預金もポートフォリオ(運用の中身)の一部に入ってきます。
そういうわけでトータルの利回りは年5%~10%に落ち着くわけです。
そして年5%で運用できるなら、0.6~0.7%台の住宅ローン金利の繰上返済に資金を投入するのは、もったいないです。
2000万円の利回りである年100万円を得るチャンスがなくなります。住宅ローンの繰上返済はたしかに早期に行うと元金が減るので支払い金利の減額効果に作用します。
それでもとくに住宅ローン減税の適用を受けているのであれば繰上返済するよりも資産運用に回した方が上記のようなケースでも年間50万円程度多く得られるはずです。
良い借金と悪い借金の切り分けを行う
クルマのガソリン代やスーパーの買い物で節約するのもムダとは言いませんが、50万円を得る機会を失うということは、50万円の損失と同じです。
少なくとも資産運用に熱心な人は、「知らずに損した」「やらずに損した」という事態を避けるべく、情報収集に余念がなく、面倒くさがらずに行動に移します。
住宅ローンの控除対象額はケースにより異なるのですが、私の場合は2000万円が適用されました。そのため10年間は毎年20万円が所得税から控除されます。簡単に言うと20万円がもらえるのです。
そのため少なくとも私はこの10年間は繰上返済せず、その資金を運用に回すことに決めています。うちの奥さんは金融の知識がないので、「借金は嫌だ。早くローンを返してすっきりしたい」と愚痴をこぼしていますが、その気持ちも分かります。
ただ損をしたくないのなら、良い借金と悪い借金の切り分けを行うことが必要です。
突然の金利上昇に備えておく
それでも変動金利に抵抗があり、「突然金利が上昇したらどうするんだ」と不安な人もいるでしょう。その場合でも下記のような緩和措置がルールとして定められています。
・金利が上昇しても毎月返済額は5年間固定
・金利が上昇しても5年後の返済額上限は前回までの返済額の125%とする
このような保護ルールがあるため、ただちに高金利の借金地獄に陥ることはありません。ただし金利が高くなることには変わらないので、毎月返済額の利息の割合が増え、元金の返済が遅々として進まなくなる事態は想定されます。
そのためもし3%、4%と短期間で金利が上昇していく局面であれば、資産運用に回していた資金を繰上返済に切り替える必要は出てくるでしょう。これに備えて資産運用の一部は短期間で現金として引き戻せるような商品にしておく必要があります。
それでも全額を一括で繰上返済する必要はありません。2000万円が住宅ローン控除の対象の私の場合、いざという時にその半分の1000万円を返済できるようにしています。
残り1000万円であれば金利が4%になっても年40万円ですし、そこから頑張って節約すれば、3年ぐらいで返済できます。
こうした準備をしつつ、住宅ローンの繰上げ返済よりも、資産運用を優先させていくことで、効率の良い資産形成ができるのです。