週末5分間 英語クラブ byコツログ

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なぜ不況が終わらないのか? 出版業界「最大の闇」取次と出版社のいびつな関係

出版業界は、1990年代末をピークに20年近く縮小してきた。

出版不況と言われて久しいが、この間、有名どころの出版社もバタバタと倒産した。

ExceやWordの超図解シリーズのエクスメディア社は2007年に自己破産し、その翌年には『間違いだらけのクルマ選び』シリーズで知られていた草思社も経営が立ち行かなくなり、民事再生法の適用を申請した。

直近の2016年にも受験参考書を手掛けていた育文社や、社会学系の新思索社が破産している。

各出版社、各編集者は頑張っているはずなのに不況から抜け出せない。いったい原因はどこにあるのだろう?

出版業界で長年仕事をしてきた立場から状況を整理すると、やはり一番の原因は業界の流通におけるいびつな構造としか思えない。

もちろんインターネットの普及や娯楽の多様化も本離れに拍車をかけているが、悪循環の発生源は出版と取次のゆがんだ関係にあるとみている。

出版業界の取次とは?

出版業界の外の人にとっては、意外なほど知られていないこの問題について極力わかりやすく説明しよう。

まず取次というのは、出版社と書店をつなぐ流通業者だ

小さな出版社では、新刊を自分たちだけでは、全国各地にあまたある書店にまで配送することが難しいが、取次が間に入ることで、代わりに書店へ書籍を届けてくれる。

日本国内ではトーハンと日販(日本出版販売)が二大取次と呼ばれており、この2社だけでシェアの70%以上を占めているが、この流通の仕組みにより、インターネットが普及する前の時代においても、地方に住んでいながらほとんどの新刊書籍を書店で手に入れることができたのだ。

しかし、取次を利用するのはもちろん無料ではない、出版社は書籍の売上から、取次へ手数料を支払う必要がある。

卸料率は出版社と取次の契約によって、幅があるもののだいたい8%前後だ。

すると出版社が1冊1000円の本を販売したときの分配比率が以下になる。

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取次は売上の分配比率こそ、登場人物の中で一番小さいが、存在感はとびきり大きい。

なぜなら出版社も書店も、この取次の存在によって不況の中、何とか生き延びてこれた部分があるからだ。

自転車操業が発生する仕組み

本の販売は値引きが許されない代わりに、書店は店頭で売れ残った本を取次を通して出版社へ返品することができる。

この制度のおかげで、書店は売れ残りのリスクを考えずに、気楽にさまざまな分野の本を仕入れることができる。また、あまり売れはしないけれど、情報価値の高い高価格の専門書も書店の店頭へ並べることができる。

このシステムは、日本の文化を下支えしてきた一面もあるが、しかし同時に書店がそれほど経営努力をしなくても問題ない状態を作りだしてしまった

なぜなら売れなくても出版社へ返品すれば良いだけなのだから。

一方、出版社にとっても取次は単なる流通業者というわけではなく、銀行代わりに利用してきた。

というのも、出版社が1冊1000円の本を1万部取次に卸したとしよう。

すると以下の計算で、1000万円が仮払い金として、取次から出版社へ支払われる。

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もちろんすべての本が売り切れるわけではないが、新刊を作ればまずはその分だけ取次から現金がもらえるので、不況だろうが何だろうが、従業員に給料を、著者に印税を支払うことができるのだ。

これこそが取次が「出版業界の銀行」と言われるゆえんだ。

売上は減少しているのに新刊点数が増えているカラクリ

ただし、良いことばかりではない。

一般に書店から出版社への返品率は4割程度発生する。つまり出版社は1万部の本を作っても、4000部は売れずに戻ってきてしまうのだ

そうすると出版社が一度受け取った1000万円のうち、400万円は借金となるので、取次へ返済しなければならなくなる。

出版不況で金庫に十分なお金のない出版社にとってこれは大きな負担だ。

しかし、ここで出版社にとって幸いな事実がある。それは新たに新刊を出すことによって、この400万円を現金で支払わなくてもよい状態をつくれるからだ。

もう一度同じ値段と部数の新刊を発行したとしよう。すると再度、1000万円の仮払い金が発生する。これを前回売れ残って発生した借金400万円を差し引いてもらうことで、出版社は差額の600万円を受け取ることができる。

実際にはここまで単純な取引ではないものの、大まかな仕組みとしては上記となる。

こうして融資を借り換えていくことによって、出版社は不況のなか、生き長らえてきた。

そのため全体の売上が減少しているのに、なぜか新刊点数は年々上昇していくという、出版業界の外にいる人にとっては摩訶不思議な状況が生じることになる。

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出版不況がここまで深刻化した原因

しかしこうした状況が長く続かないことは誰もが予感できるだろう。

どこかでヒット本が出て、借金が帳消しになればいいが、そうでないと、新刊による仮払い金の入金よりも、借金の方が大きくなってしまい、いつかは現金で支払う必要が出てくる。

しかし、ただでさえ本が売れていないのに、そんな借金を出版社が払えるわけがない。

こうして多くの出版社が財務諸表を炎上させながら、自転車操業的に延命に延命を繰り返しながら、最後はどうにもこうにも行かなくなり、倒産していった。

本が売れないことで、いま書店、出版社、取次はそれぞれ努力をしている。

しかしこうしたいびつな業界構造になっているがために努力するタイミングが10年以上遅くなってしまったことが、出版不況がここまで深刻化した原因になっているのだ。