週末5分間 英語クラブ byコツログ

世界のサッカーニュースを英語で学ぶブログです。毎週末更新します。たった5分間ですが内容の濃い英語学習にしましょう。

【書評】「信じていいのか銀行員」は知られてない良書

『信じていいのか銀行員 マネー運用本当の常識』(山崎元)を読み終えました。

これから投資を始めてみようと考えている人は、この書籍を読んでおくと投資リテラシーが上がること間違いなしです

本書を理解するには少々金融の知識が必要ですが、初心者でも読めるように書かれています。

本書で、私が興味深いと感じた点を4点紹介します。

本書の内容 その1 ファンドの過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスと関係がない

これは著者が、様々なメディアで主張していることではあるのですが、ファンドの過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスと関係がないというのが金融業界の常識だと説いています。

投資信託を選ぶ際に、ほとんどの投資家は過去のパフォーマンスの出来を評価しているので、この意見はかなりショッキングですね。ただし統計的に、著者の意見には裏付けがあり、投資信託に興味がある人は、知っておくべき内容でしょう。

本書の内容 その2 長期の運用はリスクの軽減につながらない

著者は「長期の運用がリスクの軽減につながらない」として、その理由を述べています。
一般論では、短期よりも長期の運用の方が安全と考えられています。
一時的に損しても長期で保有しているとまた株価が浮上してくる可能性はありますから。

しかし著者はこれを誤った一般論だとして、合理的な理由をあげて異を唱えています。
私は長期でもつことにより、リスクの軽減につながることがあると考えていますが、専門家の異なった角度からの意見として参考になります。

本書の内容 その3 ヘッジファンドの成功報酬は結果的に高くつく

ヘッジファンドの場合、成功報酬型を採用しているケースが多いです。
「ファンドの価格が2倍なったら、上昇した分の20%を成功報酬としていただきます」というようなケースですね。

儲かったときのみに発生する成功報酬に対しては、投資家は寛容です。しかしこれがいかに愚かな考えで損しているかを説明しています。

なぜヘッジファンドが全体の運用額がそれほど大きくないにもかかわらず、億円レベルの報酬をファンドマネージャーに支払うことができるのか。それはすべて顧客から搾取した法外な手数料で賄われていることが説明されています。

本書の内容 その4 ラップ口座とゴールベース資産管理の紹介

また本書では現在日本で普及し始めているラップ口座や、最近米国で広まりつつあるゴールベース資産管理の紹介とそのリスクについて警鐘が鳴らされています。

私もラップ口座には手を出したことはありませんが、一般の投資家もあまり知らない話だと思うので勉強になります。

ラップ口座は、資産の運用管理を証券会社や銀行に包括的に任せる仕組みで、商品の売買に手数料が掛かるのではなく、資産残高に対して手数料があらかじめ決められます。ラップ口座の「ラップ」は「包む」という意味で、運用と手数料がひとまとめにされた商品です。

このラップ口座を利用して国内の金融機関がとてつもなく高い手数料を、金融庁と顧客を出し抜いて搾取している仕組みが本書で語られています。

ゴールベース資産管理もラップ口座と似たような仕組みで、米国の証券業界で注目を集めている手法です。顧客の人生のゴールを聞き出し、投資の提案を行い、資産管理とともに運用を行うというものです。これもラップ口座と同様に資産残高に対して高い手数料が設定されており、いずれ日本でも導入されるのではないかと著者は警告しています。

山崎元はポジショントークをしない

上記4点ほど、本書の内容を紹介しましたが、これらは本書のほんの一部です。
なので、単行本とは異なり、簡単に読めるパッケージである新書にしては、けっこう内容が濃いです。

山崎元さんという方は、経済評論家で、現在は楽天証券の経済研究所客員研究員という立場の人です。
過去に銀行や証券会社など転職を10回以上繰り返しており、金融業界を広く知っている人物です。

この方の経済評論家としての一番の売りは、ポジショントークをしないということでしょうか。
ポジショントークとは次のような意味です。

【Wikipediaより】
ポジショントークとは、株式・為替・金利先物市場において、買い持ちや売り持ちのポジションを保有している著名な市場関係者が、自分のポジションに有利な方向に相場が動くように、市場心理を揺さぶる発言をマスメディア・媒体などを通して行うことを指す和製英語。

経済評論家のほとんどの方は、ポジショントークに固執します。大手証券会社の社員であれば、会社の方針と異なったことは言えないですし、自社の不利になるようなことも言えませんから。

野村証券や大和証券のアナリストであれば、公の場では口が裂けても「個人投資家にとっては、ネット証券の方が手数料が安くて便利です」なんて言えないのです。

またフリーの株式評論家もスポンサーに特定の金融機関がついているケースが多く、その金融機関が主催する投資セミナーの講師としてレギュラーのように呼ばれていたりします。

そうなるともう色がついてしまう。本音のトークなんてできなくなっちゃいますね。

ポジショントークをする人は、会社という組織の方向を向いていて、個人投資家の方には向いていない。
そのため、投資家にとって本当に有益で、本音での発言はできないのです。

私もマネー系の書籍の編集を長いことしてきましたが、著者選びでこういう「色」がついてない著者を見つけてくるのは難しいんですよね。

経済の知識があり、筆も速くてなおかつ「色」がついてない理想の著者はなかなかいないのです

一方で、山崎元さんは所属する楽天証券に少し気を遣っているものの、終始本音トークで、読んでいるこちらが冷や冷やするぐらいの内容で書いています。

ポジショントークをしないというのが、この人のポジションなんですね。

本書では、「手数料が高い」という理由で国内の銀行や大手証券、ヘッジファンドなどをめった切りにしています。
これはかなり勇気のいることです。敵を作ると、どこで何を言われるかわからないですから。
それでも山崎さんの主張が合理的な理由に基づいているので、それが通っているのでしょう。

タイトルがもったいない……

2015年12月に発売されていたのですが、私も知人から紹介を受けるまで知りませんでした。
内容はかなり良いのに売れていないようです。

発売後1年半が経っているとはいえ、2017年7月現在ではAmazonの「本」売れ筋ランキングで146,109位です。もう少し売れても良い本です。

出版社の現役編集者の私に言わせると、本書は完全にタイトル付けに失敗した書籍の典型ですね。
「信じていいのか銀行員」というタイトルはいまいちインパクトに欠けるし、どのような内容の本なのか、パッと入ってこない。

まあでも私も偉そうに言ってますけど、タイトル付けの良し悪しはセンスと運の要素も絡むので、正解はないのです。正直結果論なところもあります。

逆にイケてないタイトルでも、読者の感性とうまい具合にズレて、印象に残り、売れてしまうこともありますし。

ただ本書の場合、内容は初心者よりも少し上級の投資家へ向けた内容なので、タイトルももっと投資家に対して訴えた方が良かったかなと思います。