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【書評】文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?

近年の週刊文春の存在感は目を見張るものがあります。
ネット全盛の現在の日本社会においても、そして紙が売れないと嘆く出版業界においても、正攻法のスクープラッシュで完売(印刷の8割以上売れること)を何度も達成するのは並外れたことではありません

では、どのようにしてスクープは生まれるのか?
本書ではかなり具体的に週刊文春の編集部の内情や、記者の行動や感情について記載されていました。

週刊誌の制作現場では、土日も正月もまともに存在しない

私は出版業界で月刊誌の制作には携わったことがありますが、週刊誌の仕事はしたことがありません。遠巻きに「大変なんだろうなぁ」と想像していましたが、本書を読むとかなりブラックな環境です

週刊文春は毎週木曜日発売ですが、編集部の一週間は木曜から始まり、以下のようになっています。

【週刊文春編集部の一週間】
木曜 発売日&プラン会議、取材開始
金曜 取材
土曜 取材
日曜 取材&中刷り広告作成
月曜 取材&印刷所へ入稿
火曜 原稿を校正(内容チェック)
水曜 休日

 

出版社の場合、単行本の書籍編集者なら土日は休みです。
しかし、週刊誌となればそうは行きません。
週刊文春の編集部の休みは、水曜だけです。週休二日ではなく、休みが週に一日というだけでも、今どきの若い世代からは敬遠されそうな職場です。

ただし読み進めると、どうやらその週一回の休みもあって無いような印象を受けました。
中・長期で何本も取材を同時並行で進めているので、それこそ芸能人の不倫の尾行中であれば、曜日はもちろん正月休みさえ関係なくなります。

本書では、編集部を持続可能な状態に保つために、休みがとれるように配慮されているとの記述もありますが、それも以前の編集部と比べてという意味で、他の編集部や企業と比べるとかなり多忙です。

文藝春秋社は、新人が新卒で入社すると、まず週刊文春の編集部に配属されることが多いようですが、別の部署に異動するまでの期間を懲役と呼ばれていると本書でも書かれており、ある新人記者は最初の3か月間毎日泣きながら仕事をしていたそうです。

「右トップ」と「左トップ」の意味

本書は週刊文春の編集長が主に執筆していますが、頻繁に右トップ左トップというワードが出てきます。
これは新聞広告や電車の中吊り広告の記事いおいて配置を意味します。
一番右に見出しがある記事を右トップ、一番左の記事を左トップと呼びます。
週刊文春編集部は、この右トップと左トップにどの記事をおくかで、売上が大きく左右されると捉えており、その扱いにとても気を遣っていることが文章から伝わってきます。

私自身、政治家の賄賂ネタや芸能人の不倫ネタも積極的に情報としてインプットしますが、ソースはすべてネットからです。
そのため、文春編集部が右トップと左トップにこだわること自体に驚きました。私は新聞は契約していませんし、電車でもスマホと読書に時間を割いて、中吊り広告を眺めることはほぼないからです。

ただし、文藝春秋社では、売上集計やマーケティングも同社では行っているようですし、主たる購入層は、新聞や電車の中吊り広告を見て、購入すると判断しているのでしょう

最近では、週刊文春はインターネットで記事の一部を公開しているので、それを見て、購入する人も多いのではと考えていましたが、まだまだ新聞や電車の中吊り広告の方が何倍も影響力があるようです。

ところで、2017年5月にライバル誌の週刊新潮(新潮社)が、「出版取次のトーハンが週刊新潮の中吊り広告を事前に文芸春秋側へ渡していた!」と告発記事にして話題を呼びましたが、その記事が出たのは、この書籍発売の後ですね。

そう考えると、他社の中吊り広告を盗み見るほど、週刊文春編集部は中吊り広告を重視していたという、ある意味、この不正行為の動機が本書に書かれています。

再現ドキュメントが特に興味深い

本書で特に興味深いのは、「再現ドキュメント」です。
どのように記事ができたのか、取材開始のきっかけや取材班の動き、さらに取材対象本人への直撃インタビューなど、現場の裏側がかなり細かいところまで書かれています。

掲載されている内容を下記に並べてみますが、すべて世間を大きく騒がせたネタです。

【再現ドキュメント】
Scoop1 スキャンダル処女 ベッキー禁断愛の場合
Scoop2 甘利明大臣金銭授受告発
Scoop3 元少年A直撃の場合
Scoop4 ショーンK経歴詐称
Scoop5 舛添知事公私混同問題

 

ベッキーと「ゲスの極み乙女」のボーカル川谷絵音のLineのやり取りの内容が記事に乗り、当時は大きく話題になりました。
さすがにLineの画面ショットをどこから入手したかについては明かされていません。しかしその他の、実際の取材におけるかなり細かい部分まで、時系列とともに紹介されています。
ネタが記事になるまでの一連の過程が明かされることにより、「週刊誌の記事はこうやって作られるんだ」という覗き見感覚の面白さがあります。

これまで明かされてこなかった週刊誌発売までの裏側を知ることができるという意味で、本書は一読の価値があります。